ブルックナー/メモランダム③ームラヴィンスキー

 吉田秀和『世界の指揮者』(初出1973年、文庫版1982年 新潮文庫)では、ブルックナー関連でムラビンスキーについての分析が面白いと思います。第8番の聞き比べを通じて、ムラヴィンスキーの演奏はフルトヴェングラーと共通点があるとの指摘のあと、次の文章が続きます。
 
 「といっても、ムラヴィンスキーはフルトヴェングラーにくらべれば、ずっと『現代的』な音楽家であり、ロマンティックな趣は乏しく、細かなテンポやダイナミックな変化はずっと少ないのだが、それでいて、基本的テンポがこうであるために、そこにもやはりブルックナーの音楽の途方もない交響的拡がりは感じられなくはないのである」(p.106)。
 
 ムラヴィンスキーは1973年の来日公演をライブで聴きました。長身・痩躯の笑わぬ司令長官とその軍団(レニングラードフィル)といった強烈な印象ととともに、音楽の凝縮力も凄まじく非常な緊張をしいられました。また、当時、吉田秀和氏の文章は読んでいませんでしたが、もしもフルトヴェングラーが生きていたら、こんな感じかも知れないなと高校生ながら思いました。忘れ得ないコンサートです。そのフルトヴェングラーについては、同書では次のコメントがあります。
 
 「フルトヴェングラーという音楽家で特徴的なのは、濃厚な官能性と、それから高い精神性と、その両方が一つにとけあった魅力でもって、聴き手を強烈な陶酔にまきこんだという点にあるのではないだろうか?」(p.225)
 
 そしてシューベルトの第9番とともにブルックナーの第8番の演奏について、「彼の遺産のなかでも最も重要なものに数えられるべきもの」(p.242)としています。なお、本書は巻末のディスコグラフィ(壱岐邦雄作成)も充実していて当時の名盤履歴を知るうえで便利です。
 
<コンサートの記録>
1973年5月26日:レニングラード・フィル/東京文化会館
◆ベートーヴェン/交響曲第4番
◆ショスタコーヴィチ/交響曲第5番
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