ブルックナー/メモランダムⅤ⑤ ーミサ曲:E.ヨッフム(1)

 ヨッフムのブルックナー三大ミサのCDを聴く。ミサ曲(第1番)ニ短調とミサ曲(第3番)ヘ短調は、いずれも≪4人の独唱と混声4部、オケとオルガン≫による。一方、ミサ曲(第2番)ホ短調は、≪混声8部と管楽≫による。第1番の独唱では、エディット・マティス(S)、カール・リーダーブッシュ(B)、また3番ではエルンスト・ヘフリガー(T)など当時の第一級の歌い手が登壇しており、メンバーの質の高さが第一に特筆されよう。
 ヨッフムの解釈は、おそらく敬虔なミサ曲を扱う配慮は忘れないながら、むしろポリフォニックな構築力をより強く感じさせる。緊張感と迫力に富み作品に内在する熱く強いパッションを前面に押し出して聴き手を圧倒する。これが次に指摘すべき点であろう。
 第2番に顕著だが、厳しい合唱の統率力ゆえか、混声が完全に融合しひとつの統一された「音の束」のように響いてくる。その統一感が規律を旨とするミサ曲の緊張感を否応なく醸成する一方、管楽器のみの伴奏が効果的にこれと掛け合い、合唱の美しさとダイナミズムに見事なアクセントを付けている。
 テ・デウムを別格とし、1864ー68年にかけて集中的に作曲されたブルックナーの宗教曲の最高傑作の3曲を続けて聴くと、これらの作品の音楽的な連続性にも思いはいたる。宗教曲はいつも聴くわけではないが、ブルックナーを愛するリスナーにとって、ときに深夜、光も音量も落として、交響曲以外のもうひとつのブルックナーの世界に浸るも良し。ヨッフム会心のこの2枚は、その際の最高の贈り物であると言えよう。
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